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馬場マコト業界全発言

[朝日広告月報]1996年6月号
其小唄夢廊そのこうたゆめもよしわら
四月の歌舞伎座に何年ぶりかで其小唄夢廊そのこうたゆめもよしわらがかかった。私はわくわくして、歌舞伎座にでかけた。というのも初めて歌舞伎を見たのがこの外題だった。

馬に乗せられて鈴ケ森の処刑場に連れられて来られた白井権八は、身の上を述懐し、お仕置の覚悟をする。真っ暗な舞台で鈴ケ森に至る漆黒の芝居が続く。そこへかけつけてきた小柴は役人のすきを見て、権八のいましめを切る。

と思ったのは権八の見ていた夢で、いましめを切られた途端に、舞台は一転して桜満開の吉原仲の町。

暗転から瞬時に、眩いばかりの吉原の華やぎを見せ付けられた時、歌舞伎の鮮やかさと、その美意識に息を飲んだ。それは色が主人公の舞台だった。

広告人として私たちはここまで鮮やかに色を使い込んでいるだろうかと、ショックを受けながら、私は歌舞伎の世界にのめり込んでいった。

何年ぶりかで歌舞伎座に再び其小唄夢廊がかった。私は残業を打ち切って、夜八時半からの歌舞伎座の天井桟に駆け付けた。梅玉と雀右衛門は、はかないまでに美しく、九十七歳を迎えた志寿太夫の浄瑠璃の美声が小屋の隅々に響き渡る。そして暗黒の世界から春爛漫のにぎわいの夢の時空へ。

墨とピンク。新聞原稿で言えばたった二色で、私はこんな鮮やかな原稿を作っているだろうか。いつまでたっても私のアートディレクションは、江戸の感覚にさえたどりつかない。
  
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