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馬場マコト業界全発言

[ユニ通信]1999年3月25日号 インタビュー
"王道"を語るな。業界13位はエッジのとがった集団であれ。
『永谷園・お茶漬け』のCMは、シズルとSEのみのシンプルな映像で商品を売り、"スーパーシズル"というジャンルを作り上げただけではなく、お茶漬け市場の流れを大きく変えた。タレント出演を中止し、社員を起用した東急エージェンシー・クリエイティブのサクセス・ストーリーは、あまりにも有名である。
企画制作本部クリエイティブ局の馬場マコト局長は、〈電通、博報堂の寡占化が進行するなか、我々は同じジャンルや土俵では戦えない。だからこそ、エッジのとがった集団として誰にも真似のできない方法論を提示できるかどうかが、生き残るカギになる〉と語る。「永谷園」が生まれた背景にはこんな要素もあったようだ。
馬場氏が掲げるそのキーワードは『誠実なスキャンダル』。以前から、馬場氏は広告クリエイターに対し〈表現至上主義者は古典芸能作家〉とキッパリ言い切ってきた。〈たとえ我々が120点の答案を出したとしても、電通、博報堂が100点の答案を出したならそこに仕事がいく。"正しいマーケ、正しいクリエイティブ"では、我々の勝率はあがらない。常に業界のトップ・エージェンシーを意識し、ある意味で"甘え"のないところで戦い続ける不屈の精神が伺える。
昨年まで、旧旭通信社と第3位を争っていた同社は、旧旭通信社と旧第一企画の合併で"業界4位"の座が確定した。〈そもそも4位の王道の話になっていくことに大きな問題がある。大手2社への寡占化、さらにカンパニー制の導入で、売上げ構成からみても我々は4位ではなく13位(電・博のカンパニー数、アサツー ディ・ケイ含め12)であることを認識しなければならない。社内でもどう戦い抜いていくかの問題意識をもつ者だけが残っていくだろう。〉と厳しい。
クリエイティブ局では昨年7月、それまでのチーム制を廃止しフラットな組織とした改編を行った。以来約8ヶ月が過ぎ、〈メリットもデメリットもあるが、管理が大変になったことを除けば、少しずつ成果が出てきている〉という、馬場氏に聞いた。

−昨年夏の組織改編後の効果は?
約3年間かかって準備してきた組織のフラット化を昨年の7月に実現し、得意先の要求に合わせた機動的な組織で対応できるようになった。積極的に仕事に参加したいという社内スタッフに対し、平等にチャンスを与えることで互いの切磋琢磨をねらう。個人的にも仕事のキャパシティには差があり、それぞれの年俸の効果効率をデータべス化する作業は大変だが、全体として活性化しており、成果は出ている。一方、チームごとのアイデンティティが出せない、ある仕事に集中しオーバーフロー気味でアンバランスになる、などのマイナス面も出てきた。

−クリエイティブのスキルアップが今、Agの課題になっているようだが。
とにかくガツガツやらせてみる。我々は親鳥ではないから、エサを運んで口に押し込んだりしないし、クリエイティブのスキルアップの本質は、"ほったらかし"にあると考える。逆に言えば、ガツガツした人間が200人いれば、自然とスキルアップしていくものだ。それを促進するために、固定化したルーティン・ワークと区別した"攻め"の部分で『社内WANTED制度』を開始。もちろん、競合他社や競合商品などの守秘義務の範囲外でのことだが、プロジェクトごとのスタッフを社内募集し、手を挙げた者にチャンスを与える。難しいのは売れっ子芸者に対して、お茶をひいている芸者をどうするか。"私に声をかけないお客が悪い"と思うか、"とりあえず夜鷹でもいいから街に出よう"と思うかの意識の違いも含めて、やる気のある者には復活戦もある。ここでは年齢を超えた自己管理能力が問われる。

一方のルーティン・ワークでは、基礎的な力をOJTでつけていく。入社5年目までの社員を対象に『里親』をもうけ、局次長クラスが預かり、生活の相談から仕事の悩みまで様々な面でフォローする。仕事の配分も含め多くを学ぶチャンスにもなっているようだ。

−業界4位になったが。
今一番の大きな問題は実際は4位ではなく、それぞれのカンパニーを数えて13位だということ。我々の使命は、そこで誰もやっていないジャンルを見つけだし、追求することだ。

−永谷園がそのひとつ?
スーパーシズルとか言われているが、本当は「食べる 本能」にどれだけ迫れるか、を映像で表現したものが永谷園のCM。また、効果的なCMという意味では、昨年末のイトーヨーカ堂の「10%還元セール」が一番消費をのばしたCMだと思う。東急エージェンシーはもともと流通から出発した会社でもあり、実際に商品を売る流通の場でどれだけ商品を動かしたか、というところに特色を出したい。どのデータを支持するかは別としても、昨年『CM INDEX』の「売ったCMランキング25」に、永谷園のお茶漬け、伊藤園のジャスミンティー、KDDのイチバン電話の3本が入った反面、ACC賞は200本のうち残念ながら6本あって、ほとんどが電、博だ。広告クリエイティブの評価基準は違っていいと思うが、我々が他社と差別化できる武器は何か、という戦略を考えれば、答えは『売りに徹する』ということにある。電通を大きなショッピングモールだとすると、博報堂は百貨店、そして東急Agはほそぼそと営業している個人商店のようなもの。特色がなければ彼らにつぶされる。

−相次いで参入する外資系Agに対して。
個人商店が増えても売上げのパイは変わらない。一業種一社もワールドワイドだから成立するもので、日本国内だけでは難しいだろう。自分は昔、外資系Agに10年いたが、強みも弱みもわかっている。広告をとりまく情報は偏っている。これだけの寡占化状態の中で外資系Agの参入はそれほど驚異には思っていない。外資の影におびえず、オリジナルの道をいきたい。

−アカウント・プランナー制をどう思うか。
最終的にはマーケティングとクリエイティブの融合になっていくべきだろう。我々にとってはいずれも"勝つためのもの"だが、13位のエージェンシーとして生き残るためには、「正しいマーケティングと正しいクリエイティブによる正しい答案」だけでは勝てない。生き残り、勝つための広告のエッジを見つけられるかどうか、ということも含めて検討している。

−低下する制作費について。
今まで日本の広告主、広告会社、制作会社の関係は、パートナーとしての固い絆によって守られてきた。しかし今、得意先からの一方的な価格破壊によって、その絆は断ち切られようとしている。それも、団体など組織どうしの話し合いではなく、個々の企業でそれぞれ発火しており、川下にいる我々は受け入れざるを得ない状況だ。広告主も生き残りをかけて必死である一方、そこまで声高に言われてもビジネスが成立してきた点も多分にあったといえる。しかし一番の問題は、価格破壊に対し同じクオリティを求める、ということだ。たとえば極端に言うと、価格を5割下げてクオリティはそのまま、ということである。そこで、我々エージェンシーはさらに川下に厳しい要求をする、という構造になる。個々のビジネスを健全な形で成立させなければならないのだが、現段階ではあまりにも一方的すぎてルールが決まらない。制作会社は早くからその動きを察知して企業努力でコストダウンを図ってきたようだが、我々エージェンシーは、依然として「クリエイティブはサービス部門」という認識があり、その点では一番遅れているのも事実だろう。

−クリエイティブで収益をあげる傾向にあるが。
部門別に適正な利益管理を行っており、クリエイティブでも『利益改善プロジェクト』を開始。クオリティを確保するためにどれだけの無駄を省けるか、何に集中すべきかのこだわりの部分をチェックしている。

−企画競合、見積競合の可能性は?
企画にフィーがかかるのはあたりまえで、社内で企画すればコストはかからないということ。それが、エージェンシーとしてのあたりまえの仕事なのだから、社内クリエイターが自分の仕事をきちんとすることだ。社内で企画をきちんと出せていれば、技術的な価格の競合は公正に行える。今後はその比率を増やしていきたいと考えている。

−キャットの存在は?
この2年間でキャットの体質もかわり、スキルアップもしてきた。完全に立て直しが終わるまで、他の制作会社にはもう少し温かい目で見守ってほしい。

−制作会社のパートナー化はあるか。
今後、考えざるを得ない課題である。年間1本のみ、という取引は互いに無駄があり、バランスも悪い。集約することで、かえって迷惑をかけないようにしたい。
  
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